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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)29号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕第三 被告の答弁

原告主張の事実中、本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは認めるが、本件審決の認定は正当であり、原告主張のような違法の点はない。

(一) (四の(一)の(1)について)一群の投射光源の占める面積と映像面の面積との割合(面積比)の大小は、投射倍率をどう選ぶかの光学的設計により適宜容易に変更できることであることは、技術上きわめて明らかなところであり、この両面積を等しくすることも周知技術に属し、当業者のきわめて容易に実施しうるものである。このことは、昭和四年実用新案出願公告第八、二一九号公報には、引用例のものとは反対に、一群の投射光源の占める面積より映像面の面積が大きいものが図示されており、また、実用新案出願公告昭和二七年第四、一一七号公報には、この面積を等しくしたものが示されていることからも明らかである。

(二) (同(2)について)原告は、引用例の発明における一群の光源は、平行な二列の円孤面に配置されていると主張するが、引用例に「・・・・全テノ場合ニ於テ十箇ノ電球ハ同一遮壁ニ収斂スル様ニ装置セラル」(第二頁第六行ないし第七行)と記載されていることからみて、引用例のものにおいても、光源は各単位の投射光学系(引用例の実施例では十個)の投射光線が各単位の投影面の一点に集まるように配置されていることはきわめて明白である。

すなわち、「収斂」という用語の光学的意味は、「光線の束が一点に集中する」ことであるから、引用例の十個の電球からの光は同一遮壁上の一点に集中することを意味する。なお、引用例のものにおける投射灯の各列面が平行であるかどうかは、投射灯がそれぞれ五個一列ずつ二列に構成されているといつても、単に投射灯の並べ方を説明するにすぎないし、ことに前記のように十個の電球からの光が同一遮壁に収斂していることを考慮すれば、引用例の図面に一部不正確な記載があるとしても、当該部門の技術者ならば、投射灯の各列面が平行でなく、遮壁に立てた垂直面に対し傾きを有するものであることは容易に判断できることである。

のみならず、単位表示部の各投射素子を映像面の同一位置へ投影するように配置する点については、この種数字投射表示器においてはきわめて容易に実施されている周知技術である。その一例を挙げれば、前記昭和四年実用新案出願公告第八、二一九号公報の電灯数字表示機には、単位表示部の各投射素子が、その投射光線を映像面の同一位置に全部集合して投射するために、横に三列に配置された投射素子のうち、外側の二列は内方に傾斜して取り付けられていることが図示されている。また、引用例のもので、単位中の一列の投射灯における同一構成部材の中心がそれぞれ同一円孤線上にあることは、きわめて明らかなところであるから、面状を呈する構成部材についてみれば、その軌跡は大体同一円孤面上にあることは容易に理解できることである。このような配列状態は、その単位の他の一列についても同様である。この点から本件審決において、「円孤面」と表現されているにすぎない。さらに、単位中の十個の投射電球全部の光は、収斂すなわち一点に集中しているから、各列面は平行とならず、各列の同一構成部材の配列された各円孤面は同心の円孤面となることは当然のことである。

そして、ここでいう「同心の円孤面」は、近似的に球形面に相当し、結局、本願発明の「球形面」に帰するのである。

(三) (同(3)及び(4)について)前記昭和四年実用新案出願公告第八、二一九号公報に示されたものは、単位表示部の各投射素子の投射光線が映像面の同一位置にすべて集合するように構成されており、各投射素子の発光部、文字板及び投射レンズは、それぞれ同心の球形状の配置となつていることは、当業者の容易に認めることのできることであり、前記の点は当業者にとつて当然の技術である。

(四) (同(5)について)原告は、引用例の装置における投射素子が個別管壁構成であるに対し、本願発明のそれは一体球面プレートである旨主張するが、引用例の装置は、図示の構造に限定されるものではないから、投射素子を管状構造にするかどうかは単なる設計変更にすぎず、また、本願発明においても、各投射光学系の対応する構成部分が、共通のほぼ球面上に配置されていることが必須の構成要件ではあるが、表示用薄膜及び投射レンズが一体の球面板から形成されることは必須の構成要件ではなく、実施の一態様にすぎないから、各対応部分が共通の球面上にくるように配置保持するための組立調整は必要であり、たとえ単一の球面板に表示用文字または投射レンズを一体に多数形成することが生産上経済的であるとしても、取付けの際には、各構成部分の中心が同時に各集光光軸に合うように組立調整する困難さがある。したがつて、この点における引用例のものと本願発明のものとの差異は単なる設計上の微差で、生産組立および調整の難易に格別の差異はない。従来は、成型によるレンズには収差の少ないレンズが得られない技術上の問題があつたため、一個一個加工したものを使用していたのであるが、本願発明の出願時における成型加工技術の進歩の状態からすれば、多数のレンズを有する板を一体に製作し、これをそのまま使用することは当業者の容易に推考できる程度のことである。また、このようなレンズ板を取り付ける場合でも、すべての光軸が正しく合うように位置調整をする必要があるから、引用例のものと調整の難易さにおいて微差があるにすぎない。さらに、数字投影表示器に使用する投射レンズとして、一枚の透明板に多数のレンズを型造りによつて形成することは、ドイツ特許第七六六、一〇六号明細書(甲第七号証)にも記載されているように、すでに公知の技術手段に属する。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本願発明は、引用例記載のものと比較して、構成において五点において相違し、これに伴い作用効果にも顕著な差異があるから、本件審決が、本願発明をもつて、引用例記載の技術内容から容易に推考しうる程度のものであるとしたことは、判断を誤つたものである旨主張するが、原告の主張する相違点も、引用例に示された技術の単なる設計変更ないし設計上の微差の域を出ないものであること、以下に説示するとおりであり、また、そのもたらす作用効果なるものも特に顕著なものということはできないから、原告の前記主張は、結局、理由がないものというほかはない。すなわち、当事者間に争いのない本願発明の要旨と成立に争いのない甲第三号証(引用例)とを比較すると、本願発明と引用例記載のものとは、その構成上、原告主張の五点において相違することを肯認することができる。しかしながら、これらの点は、被告の主張するとおり(前掲「被告の答弁」の項参照。なお、被告挙示の証拠は、いずれも成立に争いがない。)、いずれも、当業者の容易に推考しうる設計変更ないしは設計上の微差に留まるものと認めるを相当とし(当裁判所がこの結論に達した理由は、被告の主張するところと同一である。)、これらに伴う作用効果として主張されたところも、特に顕著なものと認めるに足る証拠はない(本願発明と同一のものが米国において特許されたという事実の如きが右認定に何らの消長を及ぼしうべきものでないことは、いうまでもない。)。したがつて、本願発明をもつて、その説示する理由から、引用例記載の技術内容に基づき、当業者の容易に推考しうる程度のものであるとした本件審決の判断は正当であり、これを誤つた違法があるとすることはできない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。

よつて、これを棄却する。

(三宅正雄 杉山克彦 武居二郎)

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